『「読む」技術』(石黒圭)

 

「文章を読む」。

あまりに日常的で、あまりに当然で、誰にでもできる前提で語られるこの動作。

だが果たして、「読む」ということは本当に、簡単なことなのだろうか。

この本には、「読む」という動作そのものの分析と目的に応じた読み方の技術解説を通して、自らの読み方を見直し発展させるヒントが、随所に散りばめられている。


国語教育にも携わっている私が、最も難しいと感じているのが、この「読む」という動作のスキルアップである。

筆者いわく、読むとき人は無意識に、画像取得→文字認識→意味変換→内容構成、の全てを瞬時にやってのけている。

読むこと自体が苦手、という子どもたちの大半は、これらのどこかで躓いているか、もしくは大きい負荷を感じている、と言える。

特に苦戦するのは意味変換と内容構成の段階だろう、ここでキャパシティーオーバーを起こす子どもをたくさん見てきたが、その度にどうすれば鍛えられるのか、明確な答えはなかなか出せず、模索していた。

そんな中出会ったのが、この本だった。


詳しい技術の話を長々としてしまってもあれなので、特に私が「読む」という動作について噛み砕いて理解し、指導への足がかりを見つけるきっかけとなった、読み方の分類について簡単にまとめようと思う。

筆者は、読み方には5つの種類がある、と述べている。

①スキャニング(超速読)·····表現検索のための読み

②スキニング(速読)·····大意把握のための読み

③味読(平読)·····楽しみのための読み

④熟読(精読)·····概念習得のための読み

⑤記憶(超精読)·····内容再生のための読み

以上の5つの読み方から、目的や場合によって、つまりTPOによって、適するものを選択する必要がある、と言うのである。

例えば参考書や辞書で知識を調べるにはスキャニングが求められ、仕事の研修で使うためのビジネス書を読むときには記憶が求められる、といったところだろう。

入学試験や共通テストで必要となるのはスキニング、更に精査が必要な選択問題を解く際には熟読が必要かもしれない。

小説問題を解くときは味読も必要なのでは、と私個人は考えているが、文章を読むことが苦手、と思っている子どもたちの大半はここに至れない。

まずは大意を掴むこと、つまりスキニングの技術習得が最優先であり、その後味読や熟読の練習をするのがよさそうだ、と考えてすぐ、全く内容の分からない文章を最初から読み込んでいくのは大変な労力と負荷がかかることを思い出した。

私たちは無意識のうちに、「自分が読みやすい読み方で」文章を読んでいる。

超速読や速読で全体のぼんやりとした形を掴んでから読み込んでいくという人もいれば、興味のある部分からじっくりと読み込んでいくという人もいるだろうし、最初からコツコツ丁寧に読み進める人もいるだろう。

もちろん、読む文章が小説か論説かによっても、読み方は異なってくる。

報告書や新聞などのニュース、資格試験の参考書、今あなたが読んでいるこのブログ記事もまた、読み物である。

さて、ではあなたは今、どんな読み方をしている?


私は自分の読み方の内実を探り、分解し、クセや傾向を把握して初めて、やっと「読み方」の指導ができるようになった。

ご家族やお子さんへ、時には若い部下や後輩へ、「本当に読んだの?」「読めていないぞ」と叱る前に、そもそも彼らは読めているのか、読む技術は身についているのか、その時点から分析することが必要なのかもしれない。




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